小説から学術書まで、乱読家による読書履歴
MoreMorainは独断と偏見による、お勧めの本をご紹介します。
2012年06月12日
よろずのことに気をつけよ
お勧め本
話の中心にあるのは、呪い。
呪いとは人間の闇であり、憎む心の顕れなのだろう。
主人公は学者と少女。呪いを専門とする学者と、事件関係者の少女とが事件を追うミステリー。
異常な状況で殺された老人。呪術的な意味合いを濃く見せる殺人。凄まじい執念によって呪いをかけていることは明らかなのにもかかわらず、犯人は呪殺を無意味なものにしてしまうような「殺人」を犯している、という矛盾。
謎解きは呪いを中心に進むが、オカルトとしての呪いは重要ではない。呪いや神の有無についてを論じるような本ではなく、寧ろ「呪いは負の感情の表現である」「泣いて見せるのと同じようなものだ」という立場で良いだろう。
オカルト的な解決に頼ったストーリーではなかった。
屈折した、しかし屈折したまま揺るがない、少女。彼女の強さは魅力的だ。
少女の中に影を見、それを捨て置けなかった学者。
少女を必死に、守ろうとした祖父。
教会に集う人々。
助けたい、と言った老人。
彼等は皆、過去に囚われながら生きていることを強く、感じさせる。
無かったことにはならない。取り返すことは出来ない。
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まひるの月を追いかけて
読了本
小説は、粗筋などで表現できるものではない。良い本に巡り会えたときほどそう感じてしまう。
内容としては、少し複雑な関係性の登場人物達、五・六人の物語。腹違いの兄妹の失踪をきっかけとしてはじまる旅は、次第にその正体を表していく。だが、途中でさらに曖昧さを増していく。真相をすべて知る人物は、いない。
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チキタ★GUGU
お勧め本
「家族を食い殺した犯人である人喰いの化け物」に育てられる少年が主人公。極稀に存在する「まずい人間」を百年育てるとおいしくなる、という話を信じた人喰いの選択である。
ギャグ漫画のような画風に、見合わないような重い題材を描く著者の作品。
淡々と語られ、軽く扱われているようでもあるが、そもそも主人公達からして、食うものと食われるもの。殺した者と殺された者の家族である。
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機械の仮病
お勧め本
人体は機械的なものかもしれない。心臓はポンプで、脳もコンピュータの塊のようなもの。そう考えると、いつか人間そっくりの機械が出来上がっても良いのではないだろうかともおもえる。
だがこの小説はそういった話ではない。
理屈も理由も不明のまま、人間の体が機械化する病が流行った、という世界設定。といっても歯車などで、どう機能が補われているのかさえ分からない。だが、害は無いどころか、機械化した部分は病気にかからなくなり、外傷も与えにくくなる。詳しく検査しない限りは、機械化していることにも気づけないほど、生活に支障はない。結局、たいしたことではないと考えられるようにさえなり、問題はほぼ放置される。
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ボトルネック
お勧め本
もしも自分が存在しなかったら、世界はどう変わっていたのか。自分の代わりに別の人間が生まれていたらどうなっていたのか。そんな状況のパラレルワールドに迷い込んだ主人公の物語り。
二人の人物の死を体験した彼が、異世界へ紛れ込む。そこには彼の代わりに女の子が生まれている。彼等は、二つの世界の差異を見つけていく。そして彼は、彼が居なかったらどうなのか、という結論にたどり着く。
身近な死を無かったことにするためにパラレルワールドを旅する、あるいは犯人でも挙げるための冒険物語かと思ったが、そうではない。
明るいヒロインと日常を背景に、重く沈むさりげない闇。
消極的な期待。積極的に選び取ろうとはしない、未必の、故意。
最終的に彼の行く末を決めるのは、彼ではない。彼はその決定さえをも自分以外の他人に預けてしまった。
結末には、救いが無い。
*著:米澤穂信 出版社:新潮社 発行年月:2009年10月
謎解きはディナーの後で
読了本
ドラマ化されたミステリー小説。CM等の印象では、お嬢様と執事の生活がクローズアップされるのかと思った。だが読んでみた感想としては、むしろ三行ミステリーなどに近い物を感じた。さほどドラマ性を感じないあっさりとした作品なのではないだろうか。
役者は主に、主人公(お嬢様)と探偵(執事)と説明役(刑事)の三人。そして、その場の関係者達。三人はきっちりミステリーに必要な説明を読者に与える役割を担っており、ギャグ要素を交えながらも、意外なほど簡潔だ。
刑事が一通りその場の状況を語り、お嬢様は疑問とミスリードを語り、執事は解答を語る。
人間ドラマなどを重視した物語ではない。
何かの合間にさらっと読む本としてお勧めする。
*著:東川篤哉 出版社:小学館 発行年月:2010年09月
DEATH NOTE ANOTHER NOTE ロサンゼルスBB連続殺人事件
DEATH NOTE ANOTHER NOTE ロサンゼルスBB連続殺人事件
お勧め本
アニメでも映画でも漫画でも構わないが、もととなった「DEATHNOTE」を知ってから読むべき本だと思う。
天才Lを主人公とする物語。
天才による事件の攻防。不可解な連続密室殺人。
私は、最後の種明かしまで、筆者の意図したミスリードの通りに騙されたまま、読んでいた。
基本的に探偵役は女性、美空なおみ。天才の妙な助言を受けつつ、彼女が気づいたという形をとって話は進む。
余談だが、これは映像化は難しいだろう。敢えてそうするとすれば、新キャストでの実写映画が望ましい。
*著:西尾維新 原著:大場つぐみ 原著:小畑健 出版社:集英社 発行年月:2006年08月
夏と花火と私の死体
読了本
この作者の文章はあまり好きではない。だが表題作ではなく、その後に載っているもう一つの話、「優子」と題されたミステリーが気に入った。
事情のある娘。それを雇ってくれた優しい主人と、顔も見せない奥様。
奥様は本当は存在しないのではないか、と疑いはじめる娘。登場人物には悪意が無く、日本人形の不気味さと、病んだ人間の哀れさが際立つ。
斬新なものでは無いため、答えは途中から予想できてしまうが、「さてどちらなのかな」「どちらでも成り立つな」という話が好きな私には楽しめた。
*著:乙一 出版社:集英社
2008年07月26日
黒祠の島
秘蔵本
空気はまるで異なるが、「黒祠の島」と「東亰異聞」とには共通するものがあった。全ての事がたったひとつに帰着していくわけではなく、それでいて物語としての統一感を失わない。
間違いなく本格推理小説ではあるが、推理をするだけではなく、思考の海に突き落とされるような、小野不由美らしい主題が見える。読み始めには軽く読み流すことの出来る作品かとも思ったが、クライマックスに行くほど深く入り込んでしまう内容になっていた。
重大な真実を知りたくても、簡単には答えの出ない難問。安易に正しいとは言い切れない、正義の矛盾。小野不由美作品の醍醐味とも言える人間の闇と葛藤が、推理小説の中にも強く描き出されている。
凄惨な殺人事件。奇妙な風習。異常な行動をとる人々が、それを異常とも思わずにいることが普通の、社会。人間が陥りやすい、慣習の罠。矛盾を孕み、理不尽でありながらも、安易に否定することさえ許されない。
また「屍鬼」ほどではなかったが、「狭間」の概念もところどころに見え隠れしている。
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タブロウ・ゲート
お勧め本
以前連載途中のままになっていた作品のリニューアル作品。
主人の心象力によって具現化するタブロウ。小さな少女であることを忘れているかのように強いレディ。細やかでナイーブな少年サツキが主人公。
魔法を使わず、タロットの精霊のようなタブロウたちに命令を下して戦うファンタジー漫画。
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